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「ニーズを形にするのが楽しい」行政機関のクリエイティブな理学療法士の実態とは

インタビュイー: 西田紋奈さん
インタビュアー: 舩津康平

0から必要なものを作ることにワクワクを感じる

予測や連携には情報が必要と思いますが、相談対応部門であればどのような医療情報が入ってくるのでしょうか。

介護保険や障害者手帳の認定に必要な情報はありますが、それ以外の診断情報はないんですよね。細かい情報は必要なので、だから自宅訪問や関係機関からの情報収集が重要になります。それから行政は直接症状を改善するための支援はできないので、今の生活をできる限り維持するための環境設定や提案をしていく、それを関係者へ繋ぐことが中心になります。

急性期病院でのスキルというよりは、福祉住環境整備のスキルがあった方が望ましいですね。また同じ質問ですが、どんなスキルがあったら企画立案部門で役に立つでしょうか?

企画立案部門はですね、正直、臨床経験が直接役に立つ場面が少ないかもしれないけど。。ただ、臨床で感じていた課題がある方は企画の意図を伝えやすいですよね。

なるほど。理学療法士では学会発表など研究をプレゼンする機会はあると思うんですが資料作成のスキルとかも大事でしょうか。

あ、それはめちゃくちゃ大事ですね!結局、企画がなぜ必要かを訴えていかないといけないですよね。それも医療職の世界じゃないから、一般職の方に向けた根拠をいっぱい積んでいかないといけないんです。本当は統計学的に解析した成果を根拠にできるといいんですが、今私はその壁にぶつかっているところです。私も臨床研究の経験があったらなと思います(笑)

研究発表はここにも活きてくるのですね。「こんな企画したいです!」と声を上げた時、決裁権を持つのは医療職じゃないですよね。医療に関わる情報をわかりやすく伝えることが必要ということですね。

その根拠が必要な世界ですね。企画も行政だけで突進していくことはダメなので、様々な立場の方にチームになっていただいて助言をいただくことが必要です。

ふむふむ。少し視点を変えます。理学療法士として雇用されているわけではないと思いますが雇用主(行政側)からは仕事のアウトカムとして何を求められているんですか?

行政のリハビリ職が求められているという形で考えますね。私達はいつも「4つの視点で動くこと」を意識するよう言われてきました。個別支援の中で個人に対する直接的な支援と間接的な支援、地域支援の中で地域に対する直接的な支援と間接的な支援です。常に4つのアンテナを張って動くことを意識しています。

例えばどういうことでしょうか?

ちょっとイメージが持ちづらいかもしれませんが、区役所の相談窓口は個人に対する直接支援が中心ですし、地域のサロンで運動指導などをするのは地域の直接支援になりますね。個人に対する支援で、関係機関と密に連携し調整に動くことは個人に対する間接支援になるし、地域に必要な事業を企画していくことは地域に対する間接支援になると思います。

なるほど、このような4つの視点に沿った行動が求められているんですね。

全部連動しているんですが、この視点を持てば必然的に多職種と連携したり、地域と繋がったり、ニーズを常に吸収するアンテナを張る動きが取れるかと思います。

また、行政機関の採用試験を受けたいという人がいたら、どのような点が評価され、何をアピールしたら良いでしょうか?

ここに受ける人がいらっしゃるかもしれませんね。行政ができることは、地域全体のニーズに対応するための動きが取れる点なので、このような視点を持ったうえで、そこにどんな思いや熱意があるかなどをアピールしてみてはどうかなと思います。

次にどんなところに仕事のやりがいがあるかを教えてください。

行政リハビリ職は制度を柔軟に駆使したり、制度になっていないところに何が必要なのかを拾って事業や支援に繋げたりという行動が求められています。これは大変なことですけど、地域や住民の方が求めるニーズを地域の方々や関係者の方々と一緒に練っていく段階ってすごく楽しいんですよ!本当に必要なことをゼロから作るということなので。

0→1を生むやりがいですね。

たどり着いたときや役に立てたときには嬉しさ・やりがいを感じるし、たどり着いた後のマネジメントが大事じゃないですか。それがいかに地域や対象者に浸透して柔軟に対応できる事業や支援として継続できるかを練らないといけないので、すごく大変ですけどやその分やりがいがあります。

より具体的にどんな場面でワクワクを感じたかについてエピソードがありますか?

例えば区役所に勤めている時、いつも「積極的に運動しましょう」と周囲にアナウンスするくらい元気だったけれど、介護認定を受けようか迷うレベルになった方がいてですね。やっぱりコロナ禍でこういう人たちが増えた印象です。そこで、繋がりのある保健師さんや地域支援コーディネーターさんと「どうにかならないかな」と相談して、実際に地域に出て何に困っているかを改めて調査しました。そして、教室仕様の健康サロンを立ち上げようと決まりました。病院のリハビリ専門職の方々にも協力いただき、立ち上げから入っていきましたが、現在もそのサロンは継続しています。今は取り組みを市全体の動きとして考えていますが、住民の方や関係者の方と一緒に考え進めてきて浸透した、そこが一番楽しいところかなと思います。

何かを作り出すことに喜びを感じる人は行政リハビリ職の仕事に向いているかもしれませんね。

そうですね!柔軟な発想が必要だけど、行政の中で進める大前提としてあるのが、事務的な最低限のルールは押さえる必要があるので、制度を押さえた上で多角的な視点が持てたら無敵だと思いますね。

また話を変えますが、行政リハビリ職の枠は多くはないですよね。北九州市で20人程度ということですが、採用人数は増えていくんでしょうか?

人事に関する詳細は分かりませんが、今後も増えていくかどうかは、私達が北九州市に対してどれたけ役に立てるのかを内部にアピールし続ける必要があると思います。本心としては倍ぐらい本当に増やして欲しいんですけどね(笑)少なくとも毎年1人ずつぐらいは徐々に増えているので、大きく期待できそうな状況ではないけども増やしていきたいという方針は恐らくあるのではないかと思います。

それは何で増やしていこうってなっているんですか?

やっぱり政令指定都市で最も高齢化率が高いという北九州市の背景があって、そこにリハビリ専門職が期待に応えることができることを理解されてきたからではないかなと思います。北九州市以外ですと、行政の中にリハビリ職がいない市町村の方が多いと認識しています。

北九州市で言うと最近市長が変わりましたが、そのときの市長によって潮流が変わる事はあるんでしょうか?

まだ変わったばかりで分からないですね。でも、上に立つ方の理解は重要だと思うので医療・介護・福祉分野などでリハビリ専門職としての役割や強みを理解してもらえるよう、今後も変わらず業務の推進やアピールに努めていく必要があると思います。

PROFILE

  • 西田紋奈さん

    2012年に理学療法士免許取得。北九州市役所に入職し、障害福祉センター(現地域リハビリテーション推進課)、八幡西・八幡東区役所保健福祉課で高齢者・障害者相談係を経て、現在、北九州市保健福祉局地域リハビリテーション推進課で勤務している。