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介護予防と地域課題を同時解決!? 理学療法士がデザインする農園運営

インタビュイー: 今村純平さん
インタビュアー: 樋口周人

農園を上手に運営するコツ

さきほど入院中の患者さんに意図的に役割を持ってもらうことを常日頃考えている今村さんだからこそ、農園が1⼈で回らないっていう感じも、それすら演出だったのかなと深読みしてしまったのですがそのあたりいかがでしょうか?

後付け理論ですけどそれは重要なポイントなのかもしれないですね。自分では全部抱え込んじゃうタイプの⼈間だなって正直思っているんですけど、困っているところを意図的にオープンにしたりとか、弱いところとかオープンにした⽅が⼈って助けてくれやすいのかなぁとか、自分でもできるけど、あえて頼んでみるとか、できるけどできないフリをするじゃないですけど、そういった振る舞いはファームの運営においても、病院での理学療法の業務においても、共通するところはあるような気がします。

とても理解できます。同時に今村さんのような振る舞いって、他人任せと思われてしまうかもしれない部分の線引きが難しいなと思うのですが、そのさじ加減ですよね。その⼈に頼ったほうが、 むしろその⼈が⽣き⽣きしてプラスになるっていう⾒極め⽅と、この仕事はその他⼈任せみたいな感じなっていうか、ここは⾃分がやろうとか、意識されていることってありますか?

実際そこまでガチッと意識してるっていうわけではないんですよね。例えば会計とか、皆さんが面倒だろうなっていうところとか、本当に⼤変なところは私の⽅で、させていただいてくようにしています。逆に、会員さんから提案されたりすることがあるんですよね。そういった参加者の⽅が能動的に動いてくれたものに関しては、基本的にはおまかせするようにしています。そんなふうにやっていくうちになって、うまくことが運ぶことっていうのは何度かありました。

そういったことの連続が皆さんに役割を持たせるコツになるんですね。

もしかしたらそうなのかもしれないなと思いながら、農園を⼀緒にやってるようなイメージですね。

そんな今村さんの農園では実際どんな作物を育てたりされてるんでしょうか?

基本的には好きなものをそれぞれ作ってるっていう感じですね。 とは⾔え⾃由にどうぞっていうと、一体何を育てたらいいのか分からないということもあると思うので、季節ごとに春夏秋冬それぞれ収穫できるような野菜のカレンダーみたいな、ここで植え付けをしたらこれぐらいで収穫できますよみたいなのを、20品⽬30品⽬ エクセルで作って、ファームのグループラインで共有したらそれが⼀番喜ばれましたね。

確かにそれは初心者でも分かりやすいですね!

あと、これは農家さんに聞いたんですけど、夏野菜とかは、毎⽇毎⽇ちょこちょこ収穫しないと駄⽬らしいんですよね。ということは毎⽇ちょこちょこファームに来れる⽅は夏野菜の収穫が向いてるんですけど、1週間や2週間に1回ぐらいしか来れないっていう⽅なんかは、例えばキュウリとかを作っちゃうと、ファームに来ないうちにキュウリがどんどん⼤きくなって味が落ちちゃうらしいんですよね。

なるほど、季節の問題もありますしどれくらいの頻度でファームに来れるかで参加者に合った野菜があるというわけですね。

育てる野菜をガチガチには決めないんだけども、ある程度選択肢を少し減らしてあげた⽅が、逆に選びやすいっていうことなのかもしれないなとは思ってます。 あまりにも多すぎると、選ぶの疲れちゃうっていうのもありますから。

収穫する野菜をいずれ販売するというような構想はあるんでしょうか?

そうなったら⾯⽩いなと思いますね。実際に作られてる⽅は、⾃分だけじゃなくて他の⼈にも⾷べてもらいたいっていうふうに考える⽅って結構やっぱ多い気がしますね。 それがおすそわけな、会員さんの作ったものをうちのファームで販売するとかもいいと思います。

販売をすることによってさらに人との繋がりが増えていきそうですよね。

いま、ご協⼒していただいてる農家さんのお話だと、収穫とか販売って結構⼈⼿がかかるらしいんですよ。 結局植え付けとかは機械でできるんですけど収穫って⼿作業になるみたいで・・・。なのでそこで植えてるものを一般の人に収穫してもらうような取り組みもいいのかなと思ってます。観光農園みたいな感じですね。そういうのも農家さんの⼈⼿不⾜っていう⼀つの社会課題と、それをやりたいって⾔ってる⼈たちとマッチングさせることで地域課題を解決する⼀つの⽅法になると思いますから。

これから日本の人口減少に伴う⼈⼿不⾜はこれから常につきまとうところなので、そういう発想って⼤事ですよね。

そう考えたりしていると⾝近なところに地域課題をうまくマッチングさせることで解決できるようなフィールドがあるのかもしれないなっていうのは、最近よく感じるようになりました。  こういったお話しを聞いている。

と、⽥舎だから何もないできないというような⾔い訳はできないなと思います。むしろ⽥舎だからできるかもしれないことを探すって大事ですよね。

 本当にそうですね。今の置かれている状況を逆手に取って考えてみる。それが僕らはたまたま農園というのがキーワードだっただけの話しだと思います。

人口減少とか人手不足に関連して、空き家問題とかも日本全国で問題になったりしてますよね。こちらも耕作放棄地に近いような状況が起きているように思えるのですが・・・

⽇本全国で起きてるようですね。僕ちょっと、リハビリテーション病院で勤務させていただく中で、脊髄損傷の⽅とかの退院⽀援っていうのに関わらせていただくことがあるんですけども、例えば頚髄損傷後の方で、車椅⼦で結構⾃⽴される⽅っていうのはそんなに珍しくないんですよね。

意外と多いんですね。

その⽅が⾞椅⼦で⼀⼈暮らしをしたりとか、賃貸住宅に住むというのが難しいという問題があるんですよね。段差が高くて⾞椅⼦が使えないっていうケースもあったり、どうしても⾞椅⼦を使うと、床が壊れちゃったりとか、痛んだりっていうことで、⼤家さんから敬遠されてしまったりっていうのがあるので、そういう意味じゃ⾞椅⼦ユーザーの方用の賃貸住宅ってニーズがあるのかなと思ってるんですよね。

脊髄損傷の方のニーズと空き家問題をマッチングさせるということですね。今村さんの思考過程がなんとなく分かった気がします。

まだ全然話しは進んでないんですけどね。大手の建設会社がデザインしているバリアフリーの物件の展示会に参加したりするんですけど、物件の中はバリアフリーなんですけど、部屋に入るまでの廊下が狭かったり、段差が高かったりするのをみると、僕らのような職種のほうがユーザー目線に経った住宅環境のデザインができるんじゃないかとは思ってますね。

素晴らしいと思います。病院での経験がそういったところに活きてくるんですね。

社会課題をどう解決していくか、それをボランティアではなく、仕組みで解決したいなっていうのが思いとしてはありますね。

PT×農園の思考過程が全く別の領域に応用されているのが面白いなと思います。空き家であればPT×不動産?という表現になるのでしょうか。

まだ僕も勉強中なので詳しいことは言えないですが、⾦融機関から融資を受けないといけないとかそういうのもあるので、ローリスクではできないなとは思っていますが、こういう勉強は楽しいですね。

もしも一つのモデル事業として確立したあかつきにはPT×不動産で取り上げさせてください!
今村さんの発想って管理職くらいの年齢の方たちなんかは、共感性の高い視点が豊富にあるように感じますね。

それは僕も思います。20代だったら思いつきもしなかったと思うんですよね。30代まで理学療法⼠としてまかりなりにも、それなりに日々のお仕事をこなさせていただく中でなんとなくこれかなっていうところで、やっぱり基盤は理学療法⼠だなっていうのは、つくづく感じますね。

農園活動というところで特集させてもらってるので、いち読者の⽬線になって気になるだろうなっていう質問をポンポンってしたいんですけど。 結局こういう耕作放棄地を使いたいっていうふうになったら、まずどこにアクセスするのが⼀般的なんですか。

おそらく僕は農業委員会っていうのが1つキーなんだろうなっていうふうに思う。 これはもう農地をどう使うかとかっていうその辺りの決定っていうのは農業委員会っていうところでされてますので、私どもの応援ファームの⽅に⼀緒に参加していただいてる、いわゆる技術顧問っていうふうに勝⼿に⾔わせていただいてるんですけどその⽅も久留⽶市の農業委員会の⽅なんですよね。 だからそこが1つじゃないかなという気はします。

農業委員会へアクセスするというのが、耕作放棄地を使用するための足がかりという感じですね。

そうですね。とはいえ、紹介をしてもらっても、耕作放棄地というだけあって、最初の方は草ぼうぼうだったんですよ。 素⼈では⼿が負えないんですよね。なので最初の段階は、その農家さんがトラクターで耕してくれたんですよね。 そういう意味でいうと、個⼈でやるとなかなか仕事だけでやると⼤変なので、農家さんのお知り合いの⽅とかを上手に巻き込んでいけるとスムーズに行くことも多いような気がします。

農園活動に共鳴してくださった⽅を巻き込みながら、整備をしていって、そこに参加者の⼈とかを呼び込んでいくという流れが素晴らしいですね。

最初のほうはこういうやり方がいいかもしれませんね。逆に勝⼿に僕らが農地を使うと怒られることもあるから、人を巻き込まずにやるほうが難しいかもしれないですね。今回は、今のファームを作る前に、農業委員会の⽅とお知り合いだったので、できてるっていうところもありますし、そういう⽅々と出会って声かけしないといけないだろうなっていうふうには思ってますね。

協⼒し合う意味での声かけと、トラブルにならないための予防的な意味での声かけっていう感じですね。

何とかしてもらえませんかねって聞くよりも、こんなこと考えてるんですけど、どうでしょうかねっていう聞き⽅が僕は⼤事かなと思ってるんですよ。「こうしてください」っていうふうにやると向こうはYESかNOしか答えれないような気がするんです。「こうしたいんだけど、どうですかね」って聞くと、意外と向こうが答えを出してくれたりする。

確かに・・・。回答の自由度を相談側が調整するんですね。

まさに。これ病院とかでも応用が効くんですよ。リハビリで歩けるようになった⽅をできれば病棟で歩いてもらうようにお願いするときなんかもですね、病棟であれば看護とか介護職の⽅に「リハビリで歩けるようになったから、明⽇から⼀緒に歩いて⾏ってください」とかって一方向的に⾔っちゃうと、 相手からするとちょっと嫌な感じなんですよね。なので、「リハビリで歩けるようになったんですけど、病棟ではどうしたほうがいいですかね?」っていう聞き⽅をすると、看護師や介護士さんも一緒に考えてくれて、「この時間だったら私付けるから歩いてみようか」みたいな感じで、答えを出してくれるんですよね。相手に答えを出してくれるような問いかけ⽅をする⽅がうまくいくんじゃないかなって気はします。

大変参考になります。自分の意思で動くほうが納得度も違いますよね。
では、農園の維持コストについてお聞きしたいと思うのですが、ファームの会員さんからはいくらくらい徴収しているのでしょうか?

これが僕らもはっきりいくらくらいが妥当なのか分からなくて苦労したんですよ。参考にしたのは、近くの農業公園さんがやってる家庭菜園の年間会費が⼤体1万円だったんですよね。 うちは逆にそこまで設備が整ってないし、っていうところを加味して年会費5000円っていうふうにしましたね。

以外にお安いですね!それで維持コストを賄えるものなんでしょうか?

それがまた微妙なところがあって、その範囲内で今やってるとこではあります。年会費の算出に根拠があるか、私らも全然そこがわからなかったので、とりあえずこれぐらいだったら⼈が集まるんじゃないかっていうところで、やってるところですね。 あとは資材ですね、例えば肥料とかは個⼈負担で⾃分で⽤意してくださいとか、農家さんがおすすめする堆肥(たいひ)とかあるんですよ。 ⽜糞で作った完全発酵堆肥みたいなのがあるんですけど、それをファームの⽅で少し買わせていただいて、1袋300円とかっていう形で別に⽀払いいただくっていうようなそういう仕組みにはしてます。

なるほど・・・。こういうとこって少し聞きづらいところなので、この機会に詳しくお聞きすることができてよかったです。その他、低コストで運用するための工夫はありますか?

PROFILE

  • 今村純平さん

    1994年
    松下電器産業 就職

    2001年
    労働福祉事業団九州リハビリテーション大学校理学療法学科入学

    2004年
    同校卒業
    医療法人かぶとやま会久留米リハビリテーション病院入職 (現在)

    2017年
    九州大学専門職大学院 医療経営・管理学  修了