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第32回福岡県理学療法士学会タイアップインタビュー

インタビュイー: 齊藤貴文さん
インタビュアー: 縄田佳志

PTを目指したきっかけはアキレス腱断裂!?学会長齊藤先生のキャリアについて

今回は第32回福岡県理学療法士学会のタイアップ企画ということで、学会長の齊藤貴文先生にインタビューをしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。

今回の学会の見どころは、インタビューの後半にしっかりと聞かせていただきます。なので、前半では齊藤先生に関して色々とお話を伺っていきます。まずは、理学療法士としてのキャリアについて深掘りさせていただきます。そもそも理学療法士を志したきっかけは何だったんでしょうか?

目指したきっかけですか。話すと長くなりますが、高校1年生の時に、体育の時間にアキレス腱を切ったんです。アキレス腱って切れたら本当に“ボンッ!”って音がするんですよ。“ボンッ!”と音がしたから、その時は誰かにぶつかったと思ったんですよ。誰かに。でも、後ろ振り向いても誰もいなかったんですよね。また走ろうとしたら、足が動かなくなってて…なんかおかしいなと思ってアキレス腱のところ触ったらグニョグニョになってたんですよ。その時はよく分からず、その後も普通に授業を受けてて(笑)自転車漕いで病院に行ったら、「もうこれは手術だね」って言われました。なので、手術をしてリハビリをすることになったのですが、その病院に理学療法士がいなかったんですよね。その当時は、理学療法士がどこにでもいるわけではなかったですからね。その病院で、あれは誰だったんだっていう怪しげな人に暴力的なストレッチをされて、叫びながらリハビリっぽいことをされてました(笑)。

その後、断裂から2ヶ月ぐらいした時に、調子に乗って階段をジャンプしたらまた断裂しまして…今回はさすがにマズイってことでリハビリがある施設に行き、そこで理学療法士を知ったっていうのがきっかけでした。初めてリハビリを受けて、なんかちょっと華やかに見えたんですよ。めっちゃいい仕事やん!これ!と思ったわけですね。

そういう経緯があったのですね。今はクリニックに理学療法士がいるのが、当たり前の様に感じますが、当時はそうではなかったのですね。自身が実際に受傷して理学療法を受けた経験があるじゃないですか。それは理学療法士としての臨床やその後の生き方に影響しましたか?

ちょっとまた話が長くなるのですが、アキレス腱の手術をした時に、信じられないと思いますが、完全には麻酔がかかってなかったと思うんですよ。間違いなく(笑)。めちゃめちゃ引っ張られて縫われている感覚があって。叫びながら手術をうけました。その時の感覚を今でも鮮明に覚えていてトラウマになってます(笑)。

想像つかないです…

ですよね。なので、アキレス腱断裂後の患者さんを担当すると、その時のことを思い出してしまって、患者さんのアキレス腱を触ると自分のアキレス腱を触られているようで、もう気持ち悪くなってくるんですよね。ただ、受傷した経験がある分、アドバイスはしやすかったですね。説得力というか。

確かに、再断裂もしてますし、アドバイスに重みも出てきますよね。

怪我をしたことがない中でのアドバイスって、どこか表面的というか、教科書的な感じになることがあるけど、自分自身が経験をしたことで、重要性を身をもって感じているから、より説得力のある説明が自分の中でできていますね。

これまでの話を聞いていて、今の研究テーマである痛みって、実体験に影響を受けているのかなと、勝手に想像してしまいました。

そうですね…今の研究テーマに行きつくまでに色々経緯はありますが。まず、最初に就職したのが整形だったんで、臨床を通じてずっと痛みとの闘いだったんですよね。その臨床で敗北感を強く感じていました。医学的な知識とそれに伴う技術だけじゃどうにもならないことがあるなと。
丁度、痛みの業界で新しい知見がどんどん出てる時期だったんで、それを勉強するのにどんどんはまっていって、研究まで進んでいったって感じです。日々、格闘していたのが痛みに悩む患者さんだったからっていうのが大きいですね。

実体験に加えて、臨床で感じていたもどかしさも今の研究テーマに繋がったきっかけだったんですね。クリニックから次のキャリアはどのように進まれたんですか?

クリニックは結局、6年務めましたね。次のステップを考えたときに、さっきの話じゃないですけど大学院で研究をしたいっていう想いがでてきました。ただその当時は、臨床をしながら、大学院に行くのはほとんど不可能に近かったので…先輩に色々アドバイスを受けながら、教員をしながら大学院へ行くっていう選択肢もあるんだなと知ってキャリアを変えました。

そうなんですね。ということは、養成校の教員をしながら大学院へ行くことになったんですね。研究をしたいと気持ちが動いたきっかけはあったりしたんですか。

当初は、いろんな手技系のコースに行っていたんですよ。学会に行ったときに、技術系の話は理解できたんですけど、研究している人たちの話が全然わからなかったです。その時は臨床にしか興味なかったからですね。
でも、研究というのもできるようにならないと、今後まずいんだろうなっていう危機感を何となく感じてたっていうのと…。あとは語弊を恐れずに言うと、目の前の患者さんを治すっていうのは、その患者さんが治ったっていうことである程度の結果は出るんですけど、その実績が目に見えないというか明確に形としては残らない感じがしてて、その当時はなんか悩んでいましたね。
自分の中で、誰が見てもわかるようなものを作りたかったっていうのがあったんですね。少し、話は変わるんですが、僕、パン屋さんになりたかったんですよ(笑)今でも、したいって思っています。それは、自分が作ったものが目に見えて、それを複数の人に喜んでもらえるってところに魅力を感じていたんですよ。
研究して論文として残すっていうのがその感覚に近くて。何か自分が作り出したものを残していきたいっていう思いがあったんで。研究とかをしながら、論文を書いていくことで自分の存在意義を高めたいなと思い始めたのが最初のきっかけでしたね。

言わんとすることは分かる気がします。実際に大学院で研究をやってきているなかで、その印象や考え方は今も変わりないですか?

そうですね。私自身、研究をして論文として残していく過程で自信にも繋がった感じですね。臨床とはまた違う喜びがあるといいますか、臨床で介入を通じて、患者さんが改善したっていうのとはまた違う感じですかね。
患者さんの場合、自分の介入で良くなったのか、たまたまそうなったのか言いづらいところがあるじゃないですか。けど何か論文が国際誌とかに載ったら、達成感というかある程度の認められる感があるというか。でも、その論文が誰もが興味を持つ内容なのかとか、臨床で役立っているのかというのはまた別次元の問題が出てくるので、そこでもまた結局悩むんですが、、、。複数の人が見れる形になったっていうことは、自分自身が作り出したものが実績として残るので、間違いなく自信に繋がっていってるんですよね。

確かに、論文投稿の道のりが険しい分、掲載された時の喜びや達成感というのは大きいですよね。

やった人にしかわからない達成感っていうのがありますよね。それが臨床よりもすごいかっていうと、もちろんそういうことではないんですけど。やっぱり論文を書いたら書いた分の苦労と、その達成感があるのは間違いないと思います。
あと、研究を通して身に付けた論理的な思考能力が普段の仕事にも間違いなく役に立っています。例えば、会議などで散らかった議論を整理するためには、論理的に解釈して順序立てて説明していくことで皆の納得が得られやすくなりますよね。逆に、研究の実績はたくさんあるのに普段の仕事で、論理的な思考ができていない人を見ると、何を学んできたのかと不思議になりますね。

今の研究っていうのは具体的にはどういったことをされているんですか。

1つ目は、慢性疼痛の疫学研究ですね。大学院を通してこれまでに蓄積してきた知見をもとに、久山町研究をフィールドとして、慢性疼痛と生活習慣病との関連を調べていこうと準備を進めています。2つ目は、触覚に精通されている工学の先生とコラボしてやっているプロジェクトがありますね。
元々、臨床で患者さんの身体を触っているときに、痛みのあるところの動きの悪さを感じてて。なんと言うか表現が難しいですけど、動かしたときに“グズグズ”って振動を感じていたんですよね。それが治療の指標になっていたので、なんとか客観的なデータとして取れないかなって、日々悩みながら臨床をしていました。たまたまNHKを見ていたときに、人が感じている触覚を拾って、それを数値化した研究をされている先生を知って。それが今共同研究をしている先生なんですよ。
NHKを見たあと、メールしてみたんですよね。何か一緒にできないですかと。そうしたら返信がすぐ来て、できるかどうかわからないけど一緒にやってみましょうっていうのでスタートしてもう5年ぐらい経っています。

すごく興味深い話ですね。何かできないかなと思って、すぐに連絡を取ろうっていうアクティブさもいいなと感じました。
共同研究されている先生は、リハビリテーションとは全く関連のない業界ですか?最近だとリハビリテーション工学などの領域もありますが。

そうです。ただ、触覚を通して元から結構いろんな業界の人とコラボしてたみたいで、色々な研究をされてきた先生ですよ。理学療法士でガッツリ関わったのは自分が初めてだったのですが。実は、その先生に今回の福岡県理学療法士学会のシンポジウムで話していただくんですよ。

今までの県学会で工学専門の先生が話すことはなかったですよね?すごく興味深いですね。専門領域が異なる工学系の先生と、実際にやり取りする中で大変だなと思うこととかはありませんでしたか?共通言語が異なる中でのコミュニケーションとか、何か感じたことはあったりしますか。

先生は触覚が専門というのもあり、人が感じている感覚的なものをどう客観的に示していくかっていうのを追及しているんですね。だから自分が理学療法を通じて感じた感覚をオノマトペ的な表現で伝えたら、先生がそれを研究するためにはこういう機械が必要になってくるかなと落とし込んでくれるんですよね。なので、こっちがどう感じてるかという情報に興味がある感じですね。先生とのやり取りのなかで、自分の感じている感覚の整理をして、どの視点で研究をすすめるかメンバーで考えていく作業の繰り返しですね。その中で大変と感じることはなかったです。とにかく感じたところを、そのまま伝えることを意識していました。
あとは、研究の段階で実際の患者さんに手伝っていただいて、評価をするとなると専門外の先生だと上手くできないですよね。そこはやっぱり理学療法士じゃないとできないなって感じはしますね。理論上できても、実際の患者さんでやっていくと、そのやり方だと難しいなとか色々課題が出てくるんですよね。そこをちゃんと先生に伝えていくっていう役目も重要だなと思っています。

ありがとうございます。色々な領域の先生とコラボレーションをすることで、新たな視点が加わり僕らの領域だけだと限界があることも、発展させられる可能性があるんだろうなって話を聞いて感じてました。

それこそ工学系の先生達も、僕らの領域で問題となっていることや情報を知りたがっているので、win-winだと思います。さすがに工学系の先生も、臨床現場のことはわからないので。

確かにですね。イメージがつかないところもありますよね。いやすごく面白い興味深いお話でした。話のシフトチェンジをして、今度は教員としての齊藤先生の話もお伺いしたいと思います。

PROFILE

  • 齊藤貴文さん

    九州大学大学院 博士(人間環境学)

    2001年 理学療法士免許取得

    2001年 喜多村クリニックへ入職

    2007年 麻生リハビリテーション大学校へ入職

    2022年 令和健康科学大学へ入職

    Researchmap:https://researchmap.jp/saito.t