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介護予防と地域課題を同時解決!? 理学療法士がデザインする農園運営

インタビュイー: 今村純平さん
インタビュアー: 樋口周人

介護予防は“きょういく“と”きょうよう“が大事

今回は今村さんの農園活動について今回インタビューさせていただきたいんですが、まず単⼑直⼊に農園活動をし始めたきっかけ、あといつから始めてるのかっていうのを最初に教えていただいてもよろしいでしょうか?

農園活動は約2年前からですね。 コロナ禍になった後だと思います。 きっかけがいくつかあってですね。 僕たち理学療法⼠って最終的なアウトカムとしては患者さんの活動であったり参加っていうところにどう繋げていくかっていうところだと思っているんですけど、それがなかなか病院では⼗分できないところもあったり、かといってどう繋げていったらいいんだろうなっていう悩みを抱えたりしてるのがまず⼀つですね。

退院後のことをしっかり考えているからこその悩みですよね。

そうなんです。その中で、病院が結構こんな⾵景のところ(zoomの背景をわざわざ農園にして下さっていて、それをさしながらお話ししていただけました)にあって、耕作放棄地になっていることが多いというのを地域の方々から伺ったことがあって、こういった場所を患者さんの活動・参加を促すための場所として活⽤できたらいいだろうなと思ってたのも⼀つですね。それで、たまたま同じようなことを考えてらっしゃる方が地域のクリニックで医師をされていて、あとは地元の農家さんとの出会いもあったりして、普段考えていることその辺りが全部交わったときに、農園を運営してみようかなと考え始めたのが最初のきっかけだったかなという風に思います。

臨床業務の中で先⽣が感じられていた課題と耕作放棄地という地域課題を同時に解決する方法として、農園活動というのが始まったっていうことでよろしいですよね。

まさにそうです。

耕作放棄地というのを少し具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか?

⼀応⼟地って、宅地や⼭林とか農地とかっていう種⽬がついててですね、種⽬別に利⽤⽤途っていうのがある程度決まってるんですよね。 特に農地なんですけど、当院の周りの農地というのが、市街化調整区域という農地を保護するような地域でして、例えばそこの農地に建物を建てるってなると許可を得ることがなかなか難しいんですよね。

市街化調整区域というのは、農地を保護することを優先としているので土地開発をある程度制限されている地域ということですよね?農地を保護することに重きが置かれている結果、再利用の難しい土地になってしまって、最終的に農地がほったらかされてしまうってこともあるのかなと思ったのですが。

可能性はありそうですよね。実際に病院の周辺、地域の⽅がその農地を持て余して病院に「何とか使ってくれんかな」と、問い合わせいただくことはあるんですよね。 ただ、それが残念ながら建物を建てるのも⼀苦労で、駐⾞場にするのもなかなか難しいんですよ。

それも駄⽬なんですか・・・

やっぱり、それなりのちゃんとした理由があって申請しないとっていうところがあるので、かなり使⽤⽤途が限られてしまいますね。農地以外の活⽤が制限されるというのは実際に業務をやっている中で感じるところですね。

ただ今村さんはそういった問題と介護予防活動の中で見えていた課題と、うまく組み合わせることで解決されていますよね。

そうですね。偉そうなことは言えないのですが、こういったモデルが広まって課題解決に向かってくれたら本当にいいなと思いますね。

以前の介護予防活動と、農園活動を通してやっている介護予防活動の違いや良さってありますか?

以前の介護予防活動って皆さんもイメージが湧くと思うんですけど、市や町から、体操教室や運動の指導をお願いできませんかっていうような形であったりとか、腰痛とか膝痛の予防についての講義をして下さいだとか、そういったのは今までに何回か⾏かせていただいたりはしたんですけども、どちらかというと関わりは1回きりですし、あくまでその運動してくださいねとか、こういう運動がいいですよっていう、⼿段を提供するだけにとどまっている気がしてたんですよね。

たしかに手段のみの提供に終わっていて、その後参加者をフォローしているような介護予防活動は見かけないですね。

こういった農園活動っていうのは作物を育てるという“⽬的”がありますよね?その中で、作物のお世話をする楽しみであったり、収穫した野菜を食べたりと能動的に動かれてきたりするので、介護予防活動で行われているところから⼀歩先に進んだ、活動を通した他者との関わりや自分の役割を含めた参加ができるような活動に近いのかなというふうには思ってますね。

農園というフィールドを使って、参加する人々の関わりや役割意識をナチュラルに生み出しているということですよね。

従来⾏われていた介護予防活動では、⾔い⽅を悪くすると、参加している人の中に特定の目的があまりない状態で体を動かされていたような感じだったと思うんです。それが農園というフィールドを使うことによって、動かされてるではなくて、能動的に動いてるっていう状況を作り出したっていうことです。 農園活動をお世話から収穫する過程で必然的に運動に匹敵する活動が行われるというイメージです。

大変参考になります。このようなイメージって普段から考えられていたんでしょうか?

 ヒントになったのは地域ケア会議に参加したときですね。そこで⼀緒に参加してる⽅が、介護予防って”きょういく”と”きょうよう”って⼤事ですよねっていうことをおっしゃる⽅がいたんですね。

“きょういく”と”きょうよう”?学生に使われるようなイメージがありますが・・・

そうですよね(笑)多分樋口さんの思われている教育と教養ではないです。その⽅が⾔うには要するに  “今⽇⾏く”ところがあるとか、“今⽇⽤”事があるということを意味してるんです。
 この2つを意識して介護予防をデザインすると、目に見える結果は出てきやすいような気がしますね。

インタビュー開始5分でいきなり名言が飛び出しましたね。鳥肌が立ちました。僕たちの介護予防活動の役割って、実は⾏く場所と用事をつくるだけなのかもしれませんね。専門性を主張するがあまりに本質を失っている事業もありそうな気がします。

そうなんです。この考え方って病院での臨床業務にも結構当てはまるなと思ってるんですよ。患者さんの中には結構動ける方っていらっしゃいますよね?なので意図的にそういう⽤事や役割を作っちゃうんですよ。リハビリ室に用事があるから行かなきゃいけない!と思ってもらうことができると、”今日行く”、“今日用”に近づいてきたりしますよね、プログラム1個1個を⾃分の中の用事に捉えたり、別の患者さんに声かけをしたりとかっていうのをうまくマネジメントできると、相互作⽤が院内に広がって行くんじゃないかなとかは今やってて感じることが多いですね。

実際の農園活動の実態についてお話を深く掘り下げていきたいんですけど、農園活動には実際どういう⼈たちが参加されるんでしょうか。それこそ高齢者とか?

これがまたですね。私たちも高齢者の方が参加するのをイメージしてたんですけども、結構若い方も参加されたりしてて、私も今50代なんですけども同世代もしくは私よりも若い世代で⼩さな⼦供さんもいらっしゃるような30代後半から40代ぐらいのご家族とかですね。

それは以外ですね!農園には全世代を巻き込む魅力があると。

そうかもしれませんね、農園の区画を借りて皆さん思い思いに活動されてるっていうケースがありますね。

農園活動PRなどはどのようにされているんでしょうか?

PRは⼀応ホームページを見様見真似で作ったのと、もう1つがチラシを作って、⾮常にアナログですけど、近隣の保育園に配布したりしています。お母さん世代が見てくれたらいいなと。あとは昨年11⽉にコロナが落ち着いて⼀番活動しやすかった時期があったんですけど、そこで収穫祭と言いますか、畑で植えてるものを皆さんで取って、あとピザ釜を作ったりとかして、 みんなで楽しみましょうみたいな場を設けたんですよね、そのイベントがきっかけで、以降農園活動に参加された方もいらっしゃいますね。

告知自体はお話しを聞いているとそこまで積極的にやっている感じがしないですね。でも、それで⼈が集まってるということは、潜在的な需要が⾼かったのかもしれないですね。

もしかしたらそうかもしれないですね。こういった農園活動って、やってみたかったけどどこでやっていいかわからないしっていうのもあるし、実は近くに農業公園さんっていう市が運営しているところがあるんですけど、聞いてみるとそこも一杯らしくてですね。なかなか自分たちが使える区画が回ってこないっていう話も伺ったので、入り漏れた方たちの受け⽫になったのかもしれないなって気がします。

介護予防で始めたものが、世代を超えた交流の場になっているんですね。

予想してた世代よりも若い方が参加いただいたのもそうなんですが、実は日本出身でない方もいらっしゃるんですよね。もちろん皆さん⽇本に在住されているんですが、出身がアジアだったりアフリカ地域出⾝の⽅とかヨーロッパ出⾝の方もいらして、ぱっと⾒ると国際⾊豊かな農園活動になっていると思います。

世代も国籍も超えた交流ですね。まさにボーダーレス・・・

まあ、このご時世に年齢とか国籍でカテゴライズするのもどうかとは思うんですけど、一番お伝えしたいのは予想していたよりも遥かに色んなバックグラウンドを持った方に参加いただいているということですね。

当初の⽬的以上のことが今村さんの農園で起きているというか、シナジーが起きてる感じがして⾯⽩いですね。 一方でお話聞いていると実際に運営するのって結構⼤変じゃないかなとか思ったんですが、普段の業務もありながらその辺りはどのように管理されているんでしょうか?

想像されているほど農園に付きっきりでいるという感じではないんですよね。テント張ったりなんかは会員さんが協力してくれますし、雑草を刈ったり、畑を定期的に耕してくれたりもします。もちろん私も、夏の日が長い時期なんかは、仕事が終わったあとに農園に立ち寄って、少し作業したりなんかはしてます。

会員の皆さんがかなり協力的にお手伝いしてくれている印象を受けるのですが、自然とそのような流れになっていったのでしょうか?

自然とそういう⽅々が何⼈か出てきてくれたなっていうのもあります。実際に全部僕1⼈だと回らないっていうのが傍からみても明らかだったのかもしれませんね。(笑)

さきほど入院中の患者さんに意図的に役割を持ってもらうことを常日頃考えている今村さんだからこそ、農園が1⼈で回らないっていう感じも、それすら演出だったのかなと深読みしてしまったのですがそのあたりいかがでしょうか?

PROFILE

  • 今村純平さん

    1994年
    松下電器産業 就職

    2001年
    労働福祉事業団九州リハビリテーション大学校理学療法学科入学

    2004年
    同校卒業
    医療法人かぶとやま会久留米リハビリテーション病院入職 (現在)

    2017年
    九州大学専門職大学院 医療経営・管理学  修了