ジユウニハタラク

データサイエンスを武器に展開するPTのキャリアとは

インタビュイー: MITTIさん
インタビュアー: 舩津康平

意思決定につながる分析が大事

病棟看護師の忙しさ指数・・・? 規模感がすごそう…
後で深掘りするとして、順を追わせてください。データサイエンスって研究に活かすものかなって思っていました。MITTIさんはデータ分析に関して、どんな仕事から始めたんですか?

最初は部内からですね。当院は一時期、退院した患者さんの訪問調査をやっていて、1000件近い退院調査のデータを使ってクロス集計とかグラフ作成をしてみました。単純に「〇〇でした」ではなくて、「こう分析した時は△△という結果だったので□□の仮説が立てられます」や「その仮説が実際は××でした」と提示できる形にするところから始めました。

まずは自分の部署からなんですね。

はい。ただ提示して「分かった。それで?」とならないようにするのが大事だと思います。提示だけではなくて何らかのアクションに繋がるようなものをしていました。

これはスキルがあれば全国のPTでもできる範囲ですよね。分析は部内の課題を感じてしたと思うんですけど、課題の見つけ方とか、何かコツあったりしますか?

「このデータがあるから出した」じゃなくて、”知りたいことが何か”っていう方を先に考えて、分析して自分の知りたいことまだわからないよねってなったら、また違う視点での分析を繰り返すみたいな感じですね。

それは上司から指示があったわけではないんですか?

最初の頃はそうですね。自分で発信して、「こんな視点があると思います」と、とにかく出しまくるっていう。

積極的にですね。

あと分析した結果、何かの意思決定に繋がるところまでのストーリーを考えて、それに繋がる分析の見せ方をするっていうのは大事かなとは思います。でも、個人的に知りたいことだけど、組織の意思決定に繋がるか微妙なものに関しては、分析しないです。

めちゃくちゃ大事ですね。 意思決定に繋がるデータ分析か・・!!
他部署にはどう関わっていったんでしょうか?

病棟看護師の忙しさ指数の時に関わりました。最初は「このデータは持ってるけどこれだけじゃわかんないから」って言って看護部⻑室に行きました。それで看護部のデータを見たときにアプリ使うと、データが抜けそうなので、「アプリの使い方を教えてくれませんか」って所から相談しました。

へぇ〜!

他には、上司に言われたビジョンから何を指標にするか、何のデータが必要かを考えて、医事課の方に知りたいことを伝えてデータを頂いたりします。これが僕の仕事かなと。やっぱり長年働いてきた事がここで活かされているかなと思います。

看護部や医事課に話をしたときはどんな反応なんですか?「は?」となったりして・・・

元々、医事課も患者さんの相談で行ったりとかすることはありましたし、看護部⻑も看護部⻑になる前に委員会とかで仕事していたので、もうこの話自体はしやすかったんです。何か役に立てるかなという気持ちなので、次にこんな事が分かりましたとフィードバックします。すると相手は「そんなことわかるんだ」となって、次の相談がしやすくなると感じます。

サイクルを回すイメージですね。
日頃から他部署とのコミュニケーションを通じて、どんな課題を持ってるかを考える必要がありますね。

はい。15年回復期で働いてきたから気付けた視点もあったのかなと思います。

なるほど・・!

困っていても現場ではどうすれば良いか分かんないし、忙しいし、業務とは別だと思います。その「大変だ」という感覚的なものを目に見えて比較可能な数値にして上へ提示することで、少しでも働きやすい良い職場になったらいいなみたいな気持ちはあります。

実際、看護師の忙しさ指数はどう作ったんでしょうか?相当難しいのでは?汗

計算の仕方自体はそんなに難しくないかなと思うんですけど、ただ看護師さんの勤務時間とか、月に何人患者が来て何時間ぐらい働いてるかっていうデータを、自分は4病棟7年半ぐらいやって全部で30年分ぐらいになったんですよ。

30年…

なので看護師さんの勤務表を30年分ダウンロードしてそれを繋げるRのプログラムを書いて30年分集計しました。あと、患者さんがどの病棟にどれぐらいいるかのデータがあったので使いました。それも1個ずつコピペしてたら終わらないので、全部プログラミングで何年何月は何件とか、その日の看護師さんが何人とか、介護士さんが何人とかをプログラムでくっつけて、看護師さん1人あたり何人程度の患者さんを受け持ったことになるのか、患者さん1人に大体スタッフ何時間の勤務で割り当てられてるのかとかを可視化して提案しました。

地道な作業ですね。

はい。最初はDPC制度の報告でデータを取れるかなと考えたんですが、以前は仕様が違ってデータを取れないと言われて。アプリを調べてデータが取れたはいいけど、今度は職種のデータが取れないことが分かって。そういう地道な作業が大変でした。自分の技術があれば普通だったら繋がらないようなデータを繋げることもできるので。

データはあるけどどう使えばいいかわからないってこと多いですよね。

他にもナースコールのデータ、介護士さんがつけていた転倒予防センサーのデータ、利病棟課長がつけていた経管栄養や食事介助の実施状況のデータ、看護必要度のデータも統合しました。
特に医療現場だと分析できる形になってないデータって山ほどあるので前処理ができる力って大事です。IT企業とかだとそもそも整ってるからあとは分析するだけなんじゃないでしょうか。
※前処理:分析できる形にデータを加工すること。

ふむふむ。

医療現場では色んな部署のいろんな人が作った「なんじゃこりゃ」っていうようなデータをエクセルを使ってでも分析にかけられる状態まで持っていく能力はかなり重宝されるんじゃないかと思います。

前処理能力は分析能力以上に必要かもですね!
気になるんですが、看護部とかに結果を見せたときの反応ってどうでしたか??

僕は看護師の中間管理職職にプレゼンをしたのですが、自分の分析がより上の経営層に提案したいことの裏付けになったようで…
「あとはこちらの仕事やね!」、「こっちも結果出していかないといかんね!」と反応がありました。あと一人の看護師さんが泣いて「ここまで考えてくれてありがとう」と言ってくれたときは、すごい嬉しかったです。

それはすごいですね。何がどう忙しいかって見えないから見える形になるのは価値がありますね。
ところで、看護師の忙しさ指標はどのくらいの期間で作ったんでしょうか?

3-4ヶ月くらいかけました。下半期はこれに費やしたので、延べ時間は結構かかってると思います。

ほうほう。自宅に持ち帰って作業していたんですか?

一応、昨年度か分析業務をやっていくために、リーダー職を離れて臨床を半分にして半分の時間は分析業務という形の働き方をさせてもらえたので、その時間で分析やってた感じです。

えっ、それめちゃくちゃ魅力的な働き方では?

そうですね。分析させた方が経営層にとってはメリットが大きいと思ってもらえたということだと思う。

何とか結果を出して、小さなフィードバックをしてっていうのを繰り返していくうちにそうなったと。
その働き方について、他のスタッフはあんまり気にしてない感じですか?

分析は直接リハスタッフとは関係ない内容が多いので、「何かやってるらしい」ぐらいなところかもしれないです。でも伝える努力は必要かなとは感じています。
スタッフや家族の急な体調不良などで全体の業務が回らなくなるときは臨床に入る単位を増やすなど、現場のリーダーと相談しながら臨機応変に対応するようにはしています。

なるほど。この働き方をしていて苦労した話とかありますか?

うーん、周りからすると変に思われないかなという心配があるかもしれないです。ただ上司はそういった分析をする部門を作っていきたいねっていうことは言ってくださってるので、その日が来るように結果を出し続けたいなとは思ってます。
上司がそういう働き方を認めてもらえるように、お互い一緒に頑張っていこうって言ってくれてるので、そういう意味での働きやすさはあります。上司は多分こういうことが知りたいんだろうなっていう地点まで想定しながら、考え続けたからプレッシャーは大きかったです。

今のお話、僕のイメージとギャップがあって、データ分析の仕事って解析して結果をパンっと渡すイメージだったんです。でもお話を聞いていると、上司の抽象的な意見を、奥の奥まで汲み取ってどう可視化するかまで考えてますよね。そこで、データ分析にはやっぱり”真心”が大事ですか?笑

そうですね。コミュニケーションをしっかり取らないと仕事を頂いた方の期待されてる成果が出せないです。結果出したはいいけど「いや知りたいのそれじゃなかった」とならないことを目指す必要があると思います。

MITTIさんのような人が全国的に増えてきたら、相当大きな価値が生まれますね。
次に視点を変えてPTとしてのキャリアについてお聞きします!

PROFILE

  • MITTIさん

    2002年に理学療法士として回復期リハビリテーション病院に就職。
    脳卒中患者を中心に診療を行いながら、データサイエンスを用いて研究活動、病院経営の意思決定に繋がるデータ分析などの価値を生み出している。