ジユウニハタラク

住まいと暮らしをコーディネートしwell-beingの実現を目指す

インタビュイー: 天米穂さん
インタビュアー: 縄田佳志

工務店でハタラク理学療法士の実際

次は現職で実際にどのように働いているか教えていただけますか?

働き方としては、もちろんオーバーラップはしますが基本的に営業・プランナーになるんですよ。バリアフリー住宅のご相談はもちろんですが、給湯器の交換とかトイレや水栓金具の交換とか、クロスや床の張り替えなども普通にご相談頂きます(笑)

介護保険を利用した住宅改修や日常生活用具の制度を利用した住宅改造、福岡県の高齢者等在宅生活支援(住みよか)事業や、北九州市のすこやか住宅改造助成などに関してもお問い合わせがあります。お問い合わせを受けた際は、実際にお客様のところに訪問しヒアリングや評価を行います。

理学療法士の経験を活かして、身体機能やADL動作の悩みなども確認し、必要に応じてケアマネさんや病院の相談員さん、担当のPT・OTに電話で確認したりもします。場合によっては病院や施設へお伺いして、動作確認やお打ち合わせをすることもあります。専門用語を使ってコミュニケーションが取れるので、より正確な状況がわかったり素早く情報交換や連携ができるのは強みだと感じます。実際に伺ったニーズや情報収集からわかった課題を加味して、どういう空間づくりをしたら良いか、住宅改修や福祉用具の活用など、プランニングやコーディネートをするのも僕の役割です。

実際に医療福祉関連の案件も多いのですか?

工務店としてもそこに特化してお仕事をさせていただいているので、とても多いです。一般のハウスメーカーや工務店、福祉用具関連の事業所等では手に負えないような、重度の障がいをお持ちの方の住まいづくりをサポートさせていただいています。

また、統計的な側面は明らかではありませんが、高齢者はもちろん、最近では障がいを持つ子どものご家族様からのご相談が増えています。乳児・新生児の死亡率が世界最低水準であることを背景に、NICUの病床数圧迫や小児在宅医療領域のサービスの変化により、在宅生活をする医療的ケア児や肢体不自由児が増加しています。その場合、住まいのことって誰に相談すれば良いかわからず困ってしまうのですよ。

住宅や医療福祉のアドバイスを求める際、多くの窓口があるにも関わらず、具体的な情報は不足していると感じています。情報の入手困難は地域に限定されず、全国的な問題です。行政や特定の支援窓口は存在しますが、民間企業も含めてサポートは十分ではありません。介護保険や退院支援に比べ、ニーズは非常に大きいにも関わらず、小児の疾患や脊髄損傷、進行性疾患などの障がいを持つ人々向けのサポートはかなり限られています。まあこれは介護保険領域にも言えることなんですけどね。

まだ十分にサポートが整っていないのは何が要因なのでしょうか?

色々あると思います。あくまでも予想ですが、手間がかかり、収益性が低いことから取り組む企業が少ないことにあるんじゃないかと。例えば、手すりの設置であれば、見積もりを取り、部材を注文し、工事、設置後に請求を行う、比較的シンプルな流れです。しかし、仮に介護保険を利用する場合は、手続きが複雑になります。部材は認可されたものを使用し、設置方法もある程度一般化されたものでなければならず、その他、書類作成や役所への届出や報告など、多くの手間が発生します。この手間は、直接的な収益にはなりません。

また福祉用具の提供や住宅改修では、一般の建築とは異なる多くの検討が必要です。身体機能や家族構成、介助者の状況や、経済状況、将来のライフプランなどに応じた計画が求められます。例えば、スロープ工事の例でいえば、ただ階段の代わりというわけではなく、勾配や動線、移動の仕方・方法、介助者の有無、車いすの種類や形状、屋外の場合は自動車や福祉車両の駐車・介助スペースやそこからの動線、景観、雨に濡れない設計など、細かな配慮が必要です。そこに実際の動作の評価やシミュレーションが必要になってきます。

福祉と医療の視点から住まいを考えることは、一般の建築の視点とは異なり、大きなエネルギーと専門性が求められます。しかし、その過程で発生する手間やコストは、直接的な収益にはつながりにくいのが現状です。

難しい問題ですね。ビジネスである以上一定の収益性は求められますしね。その中で理想と現実のギャップが生まれてしまっているのかもしれませんね。

ただ、建てた当初は身体に不自由がなくても将来どうなるかわかりませんし。

そうなんですよね。住環境の問題って誰もが直面する可能性がありますよね。それで言うと一般的に家を建てる際、建物と外構は別々の業者が着手すること多いのですよ。

福祉住環境の観点から、建物と外構は総合的に考えることが重要です。階段や急なスロープなどのアプローチ方法が、全体の敷地に対しての建物の位置や面積、間取りに及ぼす影響を考慮しないと、住みにくさ・暮らしにくさが生じる可能性があります。なので建物とお庭や駐車場なども含めた外構をセットで考える必要があります。基礎や床の高さも変わってきますからね。

しかし、ハウスメーカーや工務店は基本的に家を売れば利益が出るため、その様な視点がないと、そもそもそういう話にならないのです。面積や設備だけを考えて家を建てるのではなく、その人の暮らしや動き、将来の子供の人数や高齢になった時のこと、二世帯住宅になる可能性や住居以外の他の活用方法などを考えていく必要があります。箱を作るだけでは不十分で、まずは、その人らしい暮らしをコーディネートすることが住まいづくりには重要と考えています。

暮らしまでコーディネートするのがすごくいいなと思って、実際に家が建ってしまったら、スロープを作らないといけない時に、じゃあ家を何メーター後ろにずらしましょうって言っても無理ですもんね。

無理ですよね。土地も決まってるじゃないですか。決められた土地の中でやらないといけない。仮にもともとすごくこだわって作ったエクステリアを壊してまで、クランクカーブしたり折り返したりする長いスロープをつくったり、段差解消機やエレベーターをつけたりとか、、、好きだった家が好きじゃなくなる可能性ってあるじゃないですか。

ありますね。

結局そうやってリフォームを何回もするのであればお金もかかりますしね。うちでは下地の入れ方とかまで意識して作ることが多いですね。将来的に手すりをつけるってなった時に、いろんな予測の上でじゃあどこに下地を入れてたらとか、どこに柱があればとか考えて設計されています。

この点はリハスタッフがなかなかタッチできないポイントかと思います。これは手すりの話ですけど、手すり以外にもそんな話がいくらでもあるんですよね。掃き出し窓がこういう形にしておけば、将来的に段差解消器置けるよなとか、玄関がこういう形で、駐車場までの動線と、道路までの距離これぐらい取っとけば、最終的に勾配がいくらぐらいのスロープ工事できるよねとか、そういう話になるんですよ。

非常に興味深いですね。現職で2年間働いて、理学療法士の経験が生きてるなって感じることはありましたか?

たくさんあります。この2年間で、お客様の持たれている知識量が多いことを実感しています。今の時代、情報が溢れているのでご自身やご家族のご病気について、詳しく知っているケースが増えてきている印象です。特にお子さんのことについては、ご家族の方々が徹底的に調べます。そのような状況で、共通言語を持たない業者に頼むのは不安だと思います。

提案できる内容の差は、専門性や熱量の問題だと考えています。お客様側からすると、何でも言うことを聞いてくれるのはかえって不安になります。物的・建築的にできるからやるのではなく、ニーズや目的のためにやる方が納得できますし、それだけでなくプラスアルファの提案や予算に合わせた選択肢の提示が大切です。便利だからといって何でも導入するのも違うと思っていて、導入することで自立・自律する機会を却って奪ってしまうことにもなりかねません。その方らしく暮らすため、QOLを高めるためにツールを新たに入れるか入れないか、どのような改修をするのか、その人の暮らしに寄り添い個別性を考慮する必要があります。

便利なものを導入しても、必ずしもその人のウェルビーイングに繋がるわけではないですよね。

そうだと思います。それはソフト面のサービスにも言えることですが、安全安心で健康な生活を支援する一方で、暮らしの中での彩りや生きがいなどを守っていけると良いなと常々思っています。

そういった意味で、両方の判断軸や価値軸があることは、選択の幅が広がり、理想と現実のギャップを埋める良い材料になるのではないでしょうか。現職で理学療法士の経験や知識を活かして働くことで、新たなスキルや視点が身についたと感じることはありましたか?

言葉にすると難しいですね。新しいアイデアを創出するための知識の土台ができているように感じていますね。2年間お客様と実際に接し、家屋を見たり触ったりすることで、今まで学んだ理論だったり知識に現実味が増してきたと言いますか。提案の幅や引き出しは確実に変化していっている印象です。

かえって理学療法士としての経験や知識があるが故に意識していることはありますね。在宅で実際に暮らしている方に携わる際、その方がどう暮らしたいかを徹底して聞くようにしています。主役は住んでいる方ですので、専門職としての自分のエゴを押し付けないようにしています。また、医療機関などで医師の処方のもと理学療法をする訳でもないですし、現在の自分の立場では言わないほうがいいことが多くあると思います。なので自身の言葉にもより気をつけるようになりました。

理学療法士としての自分のエゴを出さないというのは難しいですね。専門性を活かすのと表裏一体な気もします。自分の提案や発想が何を起点にしているのか振り返ることが重要なのですかね?

これも難しいポイントですね。なのでシンプルにわかりやすく考えると、やはりお客様やそのご家族にとってどうなのか、暮らしがどう変わるのか、本当に必要とされているのか、その人らしさを失うことにならないか、この辺りを深く考えることが大切だと思います。ただこれって本来、リハビリテーションの在り方でもありますよね。

福岡県理学療法士会からの案内です!
2022年度よりリニューアルされた生涯学習制度が始まっています。
生涯学習制度に関しても確認しておきましょう!

参考)日本理学療法士協会. 生涯学習制度について

PROFILE

  • 天米穂さん

    理学療法士
    福祉住環境コーディネーター2級
    ルームスタイリストプロ
    整理収納アドバイザー2級

    2018年 共和会小倉リハビリテーション病院へ入職
    2022年 株式会社神崎工務店へ入職
    2023年 一般社団法人0村CC設立(理事)

    住まいと暮らしのプランニング・コーディネートに従事。「らしさ」をあきらめない住まいと住まい方をテーマに、ものづくりに留まらない生活環境支援を模索中。その他「人口0人の村づくり計画」という活動を企画・運営中。