ジユウニハタラク

介護予防と地域課題を同時解決!? 理学療法士がデザインする農園運営

インタビュイー: 今村純平さん
インタビュアー: 樋口周人

若い時に大事なのは、とりあえずやってみること・巻き込まれること

なるほど・・・。こういうとこって少し聞きづらいところなので、この機会に詳しくお聞きすることができてよかったです。その他、低コストで運用するための工夫はありますか?

そうですねー。道具関係で言えば桑とかシャベルとかですね。そういうのとかも、農家さんとかが倉庫で余ってるものを再利⽤したりとかですね。あと、耕運機は運営費⽤の中で、ちっちゃいのを買わせていただいて、みんなでシェアしていますね。これがまた今⼤活躍してる感じなんですが、そんな感じでうまくやり繰りしていますね。

先生の背景画面になっているのが、実際のファームですよね?見た感じかなり広いように見えるのですが、ファームの利用者は何人くらいいらっしゃるんでしょうか?

区画そのものは、1人当たりの区画を⼀応5m×3mっていうふうにしてるんですけど、 ⼀応30名ぐらい、利用している状況です。実はもう半分がまだ余ってるんですけど、僕がまだそこまで⼿をつけきれてなくてですね・・・。管理の問題、マンパワーの問題もあるし、ある程度形ができて、標準化されたシステムができればですね、協⼒者を募って、運営をやってみたいという⽅がそのうち出てくるんじゃないかなって思っていて、そういうのやってみたいっていう⼈がいれば、役割分担してやってもいいかなと思ったりします。

いざ農園をフィールドにした介護予防活動をするとなっても、始め⽅とか、かかる費⽤とかって⼀番⼤事なとこだと思うので、そういった意味で現実的な費用を教えていただけるのはありがたいです。

僕に限って言えば最初の段階で、クリニックの院長に、同じような考えをもった先生がいらっしゃって、寄付という形で応援していただきましたからね。クラウドファンディングとか最近ありますけど、そういうので資⾦が集まったりするといいなとは思いますね。あとは市の⽅にですね、市⺠活動助成⾦みたいなやつが⼤体どこの市町村もあるので、イニシャルコスト的な範囲ぐらいは出せるんじゃないかなって気がします。

まずは活動計画を⽴てて、お住まいの助成制度を調べたりとか、農園活動を始める前からの仲間を集めたりすることができれば、すぐにできそうな感じはしますね。

⼈が集まるかどうかは、地域で差があるかもしれませんね。しかも、この農園活動では高齢者の参加に限らず、若い⼈たちも集まって、しかも⼈種も超えてっていうところだったんですけど、実際病院で私たちが診ているような患者さんが、農園活動のことを聞きつけたりとかして、参加してる事例とかってあったりするんですよ。

患者さんにも農園活動の情報が伝わっているというのが凄いですね。

実は仕事繋がりで、障害者⽤の福祉⾞両の改造をされてる⽅が、いらっしゃるんですよね。その⽅と仕事上お話しする機会があって、今のファームの話もちらっと出たんですよね。話しを聞いてみると、その⽅の弟さんが39歳で、「先⽇、脳卒中になって今⼊院してるんです」っていう話になって、もうすぐ退院とのことだったんです。弟さんは元々料理⼈で、その⽅がキッチンカーを使って弟の料理⼈としての復帰を⽀援したいんですよねっていうようなことをポロっと⾔われてたんですよね。

うわー。すごい偶然があるものですね。

で、ちょうど僕らが去年の11⽉に収穫祭をやろうとしているタイミングだったので、よかったらそこの収穫祭の⽇に、1区画をセッティングするので、よかったらキッチンカーで参戦しませんかっていうようなことをこちら側から提案したんですよね。 そしたらもう、ぜひ職場復帰初戦という形でやってみたいということで、収穫祭の盛り上がりに一役買っていただきました。

確かにリハビリテーションに関連する職種が常駐している農園で、復職できるって、とてつもない安心感がありますよね。

お兄さん弟さんも料理⼈としての経験を活かしながら、今頑張ってらっしゃるんですけども、(職場)復帰初戦っていう形で、上手くマッチングできて、お互い良かったなっていうケースがありましたね。今後はそういう場として、活⽤される事例が増えてくると面白いなと思っています。

今村さんは農園活動を仕事の傍らされて、もしかしたら不動産運営にも挑戦しようとされているなど、理学療法⼠以外の顔を複数持って今後動かれようとしているなという側⾯が垣間⾒えるんですけど、農園活動も含めて⾃分のキャリアの考え⽅って、どういったことをお考えなんでしょうか?

そうですね。確かに色んな顔を持って活動することはあるかもしれませんが、やっぱり基盤は理学療法⼠だなというのが全てですね。理学療法士を全力でやってきたことで、全てが始まってますから。当然、理学療法⼠としてですね⼀つの領域を⾮常に深めていくという⽅法もあるとは思います。ただ、自分が今後どうなるかわからないんですけど、理学療法⼠の外枠に活動の幅を広げていくっていう意味では、私も50歳で10年経てば定年退職ということを考えると、⾃分1人でも取り組める事業っていうものがその時できてたら、⾮常に楽しいだろうなっていうことは想像しています。

理学療法士って体使う仕事でもあるので、60歳を超えて長く働くことを考えると、様々な事業で⾃分の将来のリスク分散をできるっていうのは、考えておいてもいいかもしれませんね。

やはり、柱となる⼀つの⾃分の仕事がある中で、そこから派⽣して色んな働き方をするというのはいいことだと思います。今も別に副業をしようと思ってやってるわけでは決してないんですけども、それが結果的に副業のような形になったとしても、理学療法士という仕事を活かしたものであればいいなと思いますし、できれば、50歳以降でそういった働き方があるという1つのモデルになればいいなと思っています。

現在の農園⾃体はそのモデルとして完成しつつあるので、今後の活動に是非注目してほしいですよね。 今、理学療法⼠として働いてる⼈も⾃分の将来のことって絶対考えておかないといけないと思うんですけど、若いときにこういうこと考えてたら、将来焦ったりしないかもみたいなアドバイスなどありますか?

これはですね。あります。これに関しては私が最近思うことがあって、一言で言うと「巻き込まれることを嫌がらない」ほうが良い気がしています。

なんだか深そうなお話しになりそうですね。その真意は?

僕ってどちらかというとマイペースな⼈間で、どちらかというと1⼈でコツコツやるぐらいな⽅が、性に合ってるんですよね。なので、例えば⼈をいっぱい集めて、⼤きなことをやっていこうっていうのは、それやると僕自身結構ストレスなんですよ。だからこそなんですが、きっかけがあったら、⾜を突っ込んでみるっていうのは若いうちからやってた⽅がいいと思いますね。

きっかけがないと、普段の性格上なにかやるという機会がないので、意識的に足を突っ込んで色んな経験をするということですね。

福岡県理学療法⼠会という運営の⽅にも当時はよくわからなかったけど、誘われたので、やってみて、知らず知らずのうちにいろんな仕事に巻き込まれていきながら、結果的に⾏き着いたのが介護予防とか地域ケア会議とかだったんですよね。

農園活動を考えるきっかけとなった場ですね。

今まで理学療法としてずっと課題として感じていた患者さんが退院した後の“活動”と“参加”に対する悶々とした疑問がある中で、 そこにたまたま県士会の活動がきっかけで今があるということですよね。これっておそらく最初の⼀歩を踏み出してなかったら、また違う結果だったかもしれないと思うと、今のうちに例えばそういう、巻き込まれると⾔ったら⾔葉は語弊があるんですが、そういうのを厭(いと)わないように、頑張って⼀歩踏み出してみて、流れに巻き込まれてみるぐらいな感じのメンタリティを持っとくっていうのは⼤事なのかもしれないなと50になって、今思います。

NOと言えることが素晴らしいというような風潮に今はなりつつありますよね。まずは「とりあえずやってみるか」で受けてみると、案外その後のキャリアに影響するかもしれないっていうことですよね。

僕が若い頃もあんまりこういうことは意識していなかったし、⾃分がやりたいことってなんだろうって、⾃分探しの旅っていうのが僕らの若い頃にも流⾏ったんですよね。今もそういう側⾯ってあると思うんですけど、結局なかなか⾒つからなくてですね。 ⽬の前のことをとりあえずやりながら、降ってくる仕事をとりあえず頑張ってやってみたら意外とそれが将来の仕事に繋がったりとかって結構あるんじゃないかなと思ってます。

さきほど「巻き込まれる」とおっしゃいましたが、お聞きしたいのが巻き込まれるっていうのは、少し解像度を上げると、その人本人が声がかけられやすいような状況になるっていうのも1つあるように思えたのですがどうでしょうか。

あるある。それはあると思いますよ。声をかけやすい雰囲気感を出しておくっていうのもあるかなって思いますし、こういうのがあるんだけどってなったときに、頑張って⼿を挙げてみるとかっていうのもあるかもしれないし、声をかけられやすいっていうのは、その⼈にとって武器なのかもしれないなって、チャンスがいっぱい増えてくるかもしれないですね。

そうですよね。 普段から消極的な姿勢だと、声をかける以前にもそういう機会がなくなってしまうっていうパターンもあると思うので、自覚のないまま沢山の機会損失がもしかしたら起きている可能性もありそうですよね。

僕も若いときどうだったかなとかは考えますよね。 今はそう思うから、騙されたと思ってやって嫌ならやめればいいと思うんですよ。やってみてダメだったら、無理って⾔えばもうそれはしょうがないですね。

考えさせられます。NOと言うにもやる前とやった後でタイミングがあるということですよね。
では、最後に、今村さんにとって“ジユウニハタラク”とはどういうことでしょうか?

そうですね。意外にも自由という言葉の裏側に、バランスをとるようにして義務とか役割みたいなのがあるような気がしてるんですよ。 100%の⾃由っていうのはなかなかないし上⼿くいかないような気がするので、義務的にやらなきゃいけないこともあると思うし、その役割としてこれはもう僕がやらないとダメなんだろうなあっていうふうに思うこともあると思うので、その中でバランスを取って⾃分の無理のない範囲で働くというのが僕の認識です。

よくわかりました。今後の農園活動の動向に注目しています!

PROFILE

  • 今村純平さん

    1994年
    松下電器産業 就職

    2001年
    労働福祉事業団九州リハビリテーション大学校理学療法学科入学

    2004年
    同校卒業
    医療法人かぶとやま会久留米リハビリテーション病院入職 (現在)

    2017年
    九州大学専門職大学院 医療経営・管理学  修了