「描ける?」その一言から始まった、私の静かなる野望

第2章:一枚の絵が起こした、予期せぬ連鎖反応と新しい出会い

 

院内での需要に気づいてから、本格的に活動を発信しようと決めたわけですね。

 
 

はい。「もう発信しちゃおう」って決めて、5月15日から始めるって日付だけ先に決めて、Twitter(現X)アカウントを作りました。Xも初心者だし、どうやって依頼を受けるかとか、相場はいくらかとか、何も決まってなかったんですけど、とにかく始めるのが先だなって。

 
 

すごい行動力!でも、最初はあまり反応がなかったとか。

 
 

そうなんです。友達がフォローしてくれるくらいで、全然でした。そんな時に本当にラッキーだったのが、学会への参加です。また別の先輩に「にちけん(日本理学療法学術研修大会)、行っちゃいなよ!」みたいに背中を押されて、行くことになって。

 
 

その学会で、大きな転機が訪れたんですね。

 
 

はい。懇親会にも参加したんですけど、そこで実際にいろんな方とお会いして、「応援してるよ」って言ってくださる方がすごく増えて。一気にフォロワーさんが増えました。そして、その学会で受けた研修が、次のきっかけになったんです。

 
 

それが、あの「あゆみちゃん」のイラストに繋がるんですね。

 
 

そうです!私、去年一年間、長下肢装具を使った歩行介助が本当に苦手で、悔しい思いをずっとしてて。そんな時に先輩から中谷先生の研修を勧められて、動画を何回も見て勉強していたんです。その中谷先生の実技研修が日本理学療法学術研修大会であって、「これは絶対参加したい!」と思って。

 
 

熱意がすごいですね。

 
 

研修は本当に面白くて、すごく印象に残ったんです。それで、楽しかった思い出を何か形に残したいなと思って、帰りの飛行機の中で、研修に出てきた「あゆみちゃん」のイラストを描いてなんとなくSNSに投稿しました。

 
 

あのイラストとても反響ありましたよね!

 
 

まさかあんなことになるとは思ってませんでした。投稿した時、ちょうど携帯の充電が切れちゃってて、しばらく見れなかったんです。そしたら同期からLINEが来てて、「中谷先生(宝塚リハビリテーション病院)のヘッダー画像になってるよ!」って。「え、ほんとに!?」ってもう、めちゃくちゃびっくりしました。そんなことあるんだって。

 
 

ドラマチックな展開ですね!そこから、院外からの依頼も来るようになったんですか?

 
 

はい、2、3件ほど。「学会発表用のスライドで使うイラストを描いてほしい」とか、「資料の表紙になるようなイラストがほしい」といったご依頼でした。初めて院外の方から、しかもお金をいただくお仕事だったので、もう全部が手探りで。ビジネスメールの書き方から、お金の受け取り方まで、めちゃくちゃ調べながらやりました。自分が始めちゃったことだから、やるしかない!って(笑)。

 
 

その行動力が、院内での新たなチャンスも引き寄せたんですね。

 
 

本当にそう思います。私がSNSで発信していることを、特に院内で言ってたわけじゃないんですけど、どこからか話が広まったみたいで。「イラストを描いている人がいるらしい」って。それで、院内の制作部門や看護部から、リハビリ部長を通して正式に依頼が来たんです。

 
 

具体的にはどんな依頼だったんですか?

 
 

「トイレの手すりの位置がドアの外からでも分かるようなイラストを、セラピスト目線で作ってほしい」というものでした。それと同時に、リハビリテーション部の公式SNSを始めたいから、そのメンバーになってくれとか。

 
 

大抜擢じゃないですか!

 
 

はい(笑)。SNSチームは、部長と課長と私っていう体制なんですけど、実質的な運用はほとんど全部任せてもらえてて。本当にありがたいです。他にも、所属している歩行チームで使う装具説明用のパンフレット作成とか、気づけばデザイン関連のプロジェクトが4つくらい重なってました。

 
 

それ、臨床業務とどうやって両立してるんですか…?

 
 

デザイン活動は、最初はありがたいことに業務時間内にやってもいいと言われていたんです。でも、周りのみんながすごく忙しそうにリハビリしてる中で、私だけパソコンに向かって好きなことをやってるように見えたら申し訳ないし、何より自分が悔しいなって。だから、体力が続く限りはみんなと同じ、いやそれ以上の診療数を絶対にやろうって、自分の中で決めた日がありました。やるべきことをちゃんとやった上で、仕事が終わった後、自分の好きなことに時間を使う。そう決めてやってますね。

 
 

すごい覚悟ですね。職場はそういう新しい挑戦を後押しする雰囲気があるんですか?

 
 

めちゃくちゃありますね。特に私が入職してから、大学院に行く人や学会発表をする若手がすごく増えて。少し上の先輩たちが中心になって、どんどん新しいことをやっていこうという流れがあるんです。私も、たまたま運良くその流れに乗れた。周りの環境がそうだったからこそ、「私も頑張ろう」って思えたんだと思います。

 

Profile

丸平明日香さん

[学歴]
2023年 広島国際大学 総合リハビリテーション学部 理学療法学専攻 卒業

[職歴]
2023年 福岡リハビリテーション病院 入職