変化の中で見つけた「私らしい」理学療法士の在り方

  • インタビュイー:松岡美紀さん
  • インタビュアー:縄田佳志

“機能”だけじゃない!子どもの心と向き合うための第一歩

本日はお忙しい中ありがとうございます。まずは松岡さんのキャリアのスタートからお伺いしたいのですが、ファーストキャリアは最初から小児領域の勤務先だったんですね。

そうです。ファーストキャリアが小児バリバリのところで、理学療法士として働いていました。

元々、小児領域に進もうと思ったきっかけは何かあったんですか?

はい。臨床実習ですね。沖縄の実習に行かせていただいて、私と同じ年齢の重症の方を担当させていただいたんです。その方が、座ることもできないような強い変形を持った方で。当時の私は、どう介入すればいいのか分からず、大きなギャップを感じました。それが強く印象に残り、小児に関心を持つようになりました。

なるほど、教科書通りにはいかない現実を目の当たりにしたんですね。

ええ。元々その小児領域は頭になかったんですけど、いくつかその後実習に行かせていただいた後もずっと小児のことが気になってて。やっぱこれはなんかちょっと行かねばというか、自分がなんとかしなきゃっていう変な使命感に駆られてですね、小児領域に進むことにしました。

当時、松岡さんの周りで小児領域に進む方は多かったんですか?私の頃は学年に1人いるかいないか、という感じでしたが。

そうですね。学年で1人出ればいいみたいな風に言われてたけれども、私の時は3人くらい希望者がいました。。学校によっても特色があるのかもしれません。

その後の勤務先も小児領域の施設ですか?

そうです。最初の勤務先は通園施設だったので、お母さんと子どもさんが幼稚園みたいに通ってきて療育を受けるスタイルだったんですけど、次の勤務先は入所施設で、大人になった重症児の方々がたくさんいらっしゃいました。

小児領域の中でも重症児の方と対峙する機会が多かったのですね。

はい。その時に掛け持ちで訪問リハもやってまして。福岡市の医師会で、子どもたちの家に回ってました。

訪問リハも経験されたんですね。病院とはまた違う難しさがありそうですね。

そうですね。病院は管理された環境ですけど、家は団地で階段があったり、サポート体制も様々で。高齢者とはまた違う視点が必要だと感じました。

臨床現場を離れずに教育に関わられていたのは素晴らしいですね。ところで、臨床から養成校の教員になろうと思ったのはなぜだったんですか?

最初の勤務先にいた時に、「私って何者なんだろう」っていうのが常にありました。子どもを見るっていうところでは、理学療法士である前に、子どもに対する知識だったり、保育士的なスキルとか、発達のこととか、。学校で教わらない専門外のところをすごい勉強しなきゃいけなかったんです。

理学療法士としての専門性とのギャップを感じていた?

そうなんです。一方で、私って理学療法士として本当に確立できてないなっていうか、専門性のところで息詰まっている部分があって。最初は教員になりたいっていうよりは、教えることを通して自分が勉強したり、今やってることをちゃんと理由付けができるようになったりできたらなと思って教員になりました。

「何者なんだろう」という感覚、分かります。理学療法士的なアプローチもしつつ、保育的な関わりも求められる中で、自分の専門性が見えにくくなるような。

そうです、そうです。すごく広い部分を求められすぎて、その分、理学療法士としての特化した部分が薄れていく気がしてたんです。でも、それはその時の感情であって、今はまた違いますけど。

今は違う、というと?

今は、理学療法士というのはあくまで「切符」だったんだろうなって。1年目の時に副園長先生(理学療法士)に、「理学療法士ということにこだわっていたら何も見えないぞ。」とお前は1年間理学療法士ということを忘れろ」って言われたんです。とにかく子どもに関わってみろと。子どもがどうやったら乗ってくるのか、興味を引けるのか、どんな遊びが好きかとか、そういうのを徹底的に引き出してみろって言われて。

すごい言葉ですね…!当時はどう受け止められましたか?

最初は「なんで?」って思ってましたけど、なんか今だったらほんとそれは分かるというか。機能面だけ見ようと思ってても絶対うまくいかないなって。子どもっていうことをちゃんと勉強しないと本末転倒だっていうのは、今になれば本当に良くわかることです。理学療法士としてのアイデンティティに強くこだわっていたからこそ、そのギャップに苦しんでいたんです。

その「理学療法士を忘れる」という経験を通して、具体的に何が見えてきましたか?

例えば重症児を見ていた時に、機能面って言うと、どうしてもできてないところ、問題点、課題点みたいなマイナス面を見てしまいがちですけど、そうじゃなくて、この子がどんなことをしたら喜ぶのかなとか、少しでもコミュニケーション手段として手が動かせるか、足が動かせるかとか、座り方をこう考えたら首が動かしやすくなってスイッチを押せるかなとか。そういうプラスの面、できること、楽しいことを見るようになったというか。

なるほど。マイナスを埋めるのではなく、プラスを引き出す視点に変わったんですね。

そうです、そうです。人との関わりに興味のないお子さんとか、歩く練習とかよりも、まずは遊びの中でやり取りを繰り返したり、「もう1回」を引き出したり。そういう関わりの中で、「あ、こうしたらうまく反応してくれるんだ」「こういう遊びが好きなんだな」っていうプラスの面が見えてきました。それが結果的に、今でいうアセスメントの部分を広く見ることにつながったんだと思います。理学療法士として何かをしようとすればするほど遠ざかることもあるんだなって。まずは子どもを知って、関係を作ることが全てなんだと気づきましたね。その副園長の一言は、本当に大きなターニングポイントでした。

Profile

松岡美紀さん

1994年~2000年 社会福祉法人こぐま福祉会 こぐま学園 

2000年~2001年 社会福祉法人慈愛会 医療福祉センター聖ヨゼフ園

2001年~2022年 学校法人麻生塾 専門学校麻生リハビリテーション大

2023年~    LITALICOジュニア児童発達支援事業部児童発達支援部九州第1グループ