変化の中で見つけた「私らしい」理学療法士の在り方

  • インタビュイー:松岡美紀さん
  • インタビュアー:縄田佳志

学生の心に火を灯す―教育現場で感じた葛藤とやりがいー

臨床での様々な気づきを経て、養成校の教員になられたわけですが、当初は勉強のため、いずれは現場へ、というお考えだったのが、結果的に22年間も勤められたんですね。

そうなんです。そんなに長く教員をするつもりはなくて(笑)。教育自体がすごく楽しかったんですよね。学生教育の素晴らしさというか、そこにすごく魅了されたところがあって。

具体的に、どういったところに魅力を感じられたのでしょうか?

学生の中にも、それぞれ特性を持っていて、できなくって困ってる学生さんっていっぱいいて。学校でもうまくいかないし、実習でもうまくいかないし、みたいな子がたくさんいたんですけど、その学生の気持ちがすごくわかるんですよ。

ご自身も、いわゆる「優等生」タイプではなかった?

全然(笑)。なんか自分もそっち側というか…先生が嫌いだったんですよ、中学高校とか。いわゆる「先生」が苦手で。だから、こんな先生だったらいいのにな、とか、私だったらこうする、みたいなところが元々あったんです。

なるほど(笑)。その思いが教育への原動力になったんですね。

まずは学生の味方になりたいっていうのが大前提でした。その学生のできないとか、やりたくない気持ちを受け止めて、一緒にやっていこうぜっていう風に思っていきたかった。それが割と自分にフィットしてて。国家試験対策でも、担任としてもかなりそこでやりがいを感じていたので、気づけば22年って感じで、教育にズボっと入っていった感じですね。

教育の楽しさは最初から感じられていたんですか?それとも、徐々に?

最初から楽しかったですね、学生と話すのは。楽しくて仕方ないって感じではあったんですけど、最初の頃とかはやっぱり自信がなかったです。。あと、「先生とは」みたいなところもまだ若くて分からなかった。だから、上から言ってみたり、強く指導してみたりとか、最初のうちはやってたなって、すごい反省をしてます。

当時はそういう指導が求められていた時代背景もあったかもしれませんね。

そういう時代でもあったなと思うんですよね。それが正しい先生像みたいなところもあったから、言わなきゃいけない、できてない学生には強くやらなきゃいけない、みたいなところをすごい持ってたんです。でも、自分の中でそれって結構どうなんだっていうのがあって。言えば言うほど溝ができて、学生を導けないみたいなこととか…。やその中でいろんな学びを得て、やっぱり学生には、言うよりはまずは理解する、彼や彼女らの悩みとか辛さとかをまずは理解して、そっから伝えていく方がいいなっていう、自分なりのやり方みたいなのを構築していったかなと思ってますね。

指導法が変化していったんですね。

はい。だから最初のやり方ってなんか全然ダメだったし、思い上がってたなっていう部分もあるんですけど。だんだんとやり方が分かったっていうのと、教育ってこういうことなんだなっていう…いわゆる「心に火をつける」って言われてるんですけど、心に火をつけることができる教員になりたいっていうのが、途中ぐらいからすごい強く思ってきて。

心に火をつける、ですか。

ええ。火がついた学生っていうのは、どんどん自分で自信持って色々やっていくなっていうのを感じました。。学生の良さとかをちゃんと引き出して、「あなたこういうとこちゃんとできてるよ」って言えたらいいなって。

22年間の中で、学生さんの雰囲気や特徴も変わってきたと感じることはありましたか?

変わりましたね。一般的に言われてるのは、学力が下がって、養成校に入ってくる学生の偏差値が下がって、勉強してない層が多くなったっていうのは当然あるんですけど、それ以前に、勉強や対人に苦手意識をものすごく持ってたり、継続してやることができないみたいな学生さんが多かったですね。

継続が苦手、ですか。

ええ。だから、より一緒に伴走が必要だなっていうのを感じましたし、なんかこうすぐに諦めちゃうじゃないけど、「もういいです」っていうのが早いなっていうのは…「え、なんで?まだいけるよ!」っていうようなのも感じました。

一方で、良い変化はありましたか?

真面目だなってすごく思います。以前より、優しいし、真面目。だから、仲間同士で傷つけ合うのとかもすごく気にするし、毒舌吐くような子もあんまりいなくなってるし。

周囲の空気を読みすぎる?

本当そう。空気読みすぎちゃってるみたいな、みんな。前は「自分がやるやる!」みたいな子が多かったのに、意見をいうことに自信がない学生が多かったですね。

コミュニケーションの取り方も変わりましたか?

やっぱりコミュニケーションが圧倒的に不足してるのかなっていうか、直接的なコミュニケーションとか。例えば、入学式の後のオリエンテーションとかで、前だったらすぐ友達作ってワーッて連絡先交換とかしてたのに、なんかシーンってなって、自分の席に座ってみんなスマホ見てるみたいな。最近の特徴ですね。きっかけ作んないと友達に声かけられない、みたいな。

そうなんですね。自ら関わりにいくことに苦手意識があるのかもしれないですね。

苦手意識もあるし、面倒くささもあるし、パワーがいることなんでしょうね。だからみんながスマホ見てたらスマホ見よう、みたいな風になってるなと思って。だから、そういうのは意識して、グループワークしたり、色々仕掛けたり、アイスブレイクしたりとか。で、ワーッてなってくるのが楽しくて。

松岡先生が関わるとクラスが活性化しそうですね!

そうすると、私が持ってるクラスは大体「うるさい」って言われちゃってて(笑)。

ええっ(笑)。

本当は色々持ってるじゃないですか、本音とか、願いとか。そこを黙っているクラスなのか、喋るクラスなのかって言うと、絶対出してほしいなと思って仕掛けていたので。お互いが自分を出してぶつかり合うから本当うるさくなっちゃうんですよね。で、やっぱりそうすると他の先生たちから目つけられちゃうみたいな。

目をつけられちゃうのですね…(笑)元気がある方がいいのかなとか思っちゃいましたが。

そんなのもあって、ちょっと私、学校向いてないなって最後らへん思い始めてましたね(笑)。なんで怒られんのや!って話ですよね。社会に出たら意見求められるのに、そんな黙っとくだけじゃダメやろ、みたいな。もっと自由な教育ができればいいのになって、いつも思ってました。

Profile

松岡美紀さん

1994年~2000年 社会福祉法人こぐま福祉会 こぐま学園 

2000年~2001年 社会福祉法人慈愛会 医療福祉センター聖ヨゼフ園

2001年~2022年 学校法人麻生塾 専門学校麻生リハビリテーション大

2023年~    LITALICOジュニア児童発達支援事業部児童発達支援部九州第1グループ