2. QOLを動かすセラピー:ドッグセラピーから学ぶ“心のリハビリ”
次に、ドッグセラピーの普及状況についてお伺いします。全国的、そして福岡県ではどのような場所や対象者に対して活動されていますか?また普及は進んでいるのでしょうか?
非常に広がっていると感じています。福岡での活動を知った方々からの依頼も多いですし、小児病院での活動を知った他の病院からも依頼が増えてきていますので、ニーズが高まっているのを感じます。特に、ファシリティドッグ(病院に常駐する犬)がメディアで有名になり、単発で来てほしいという医療機関からの問い合わせが増えました。
アニマルセラピーといったら治療という印象があるのですが、あっていますか?
アニマルセラピーは目的によって大きく3つに分類されます。医師やリハビリ職などの専門家が、治療の一環として動物を介在させる動物介在療法(AAT:Animal Assisted Therapy)、学習目標の達成や命の大切さ、思いやりの心を育む事を目的とした動物介在教育(AAE:Animal Assisted Education)、動物介在活動(AAA:Animal Assisted Activity)があります。
活動の目的によって呼び名が異なるのですね!病院だからAATといったわけではないんですね。勉強になります!
一方で、PDCAサイクルを持ち、目的や効果検証を伴うような実践は、AATとなる可能性があるといえます。
ちなみに、広がっているのは医療・介護の現場では、いわゆる動物介在療法(AAT)の方が多いのでしょうか?それとも全ての種類にわたるのでしょうか?
種類で言うと、動物介在活動(AAA)の方が多いと感じます。
ありがとうございます。では次に、ドッグセラピーとリハビリテーションの親和性や今後の可能性について、お二人の立場からお聞かせください。まずは今村さんからお願いします。
私たちの福岡での活動では、OTさんや臨床心理士さん、STが関わってきましたが、PTさんとは是非繋がりたいと思っています。ある泌尿器科の専門病院のPTさんから、『食事療法と運動療法が凄く大事だけど、リハビリへのモチベーションが上がらない患者さんも少なくないため、患者さんのモチベーションを上げるためにドッグセラピーに興味があります』という問い合わせをいただいたことがあります。これは素晴らしい発想だと思いました。犬と歩くことで「明日も歩こう」と思えると、効果も違うだろうと想像しています。
今村さんがおっしゃるように、リハビリ現場では運動療法や食事療法が非常に大切ですが、患者さんのモチベーションがなければリハビリは進みません。動物が間に入ることで、動物で笑わない人はほとんどいないくらい、不思議な力を持っていると感じます。リハビリ現場では、運動機能や生活動作能力の改善を図るだけでなく、精神面への働きかけは今後ますます重要になると思いますし、セラピードッグの関与が患者さんの運動・社会参加・モチベーション向上に効果が期待されることも報告されてきてますしね。理学療法とアニマルセラピーの親和性は非常に高そうですね。今後、理学療法士が「動物介在療法」のチームの一員として関わる場面も増えてくるといいですね。
それでは、次に赤木さんからもお願いします。
小児病院では週に1回活動していますが、子どもたちは『来週ワンちゃんが来るから、嫌いなお風呂に入って待っておこう』『注射の処置を頑張ろう』といったように、モチベーションが向上するのを感じます。子どもが笑顔になると、24時間付き添っているご家族も笑顔になり、その笑顔を見て子どもが安心するという良いサイクルが生まれます。また、ご家族方がドッグセラピーの時間だけは子どもと離れてご自分の時間を過ごせる、という話もよく聞きます。対象となる子どもさんだけでなく、ご家族や看護師、保育士など、周りの人々全体に良い影響を与え、前向きな気持ちにさせてくれるのがドッグセラピーの大きな効果だと感じています。これは、病気と向き合う意欲の向上にも繋がると思います。
そのとおりですね。発達障害のお子さんのリハビリでも、子どもが楽しそうにしているだけでご家族が安心したり、『そんなに悩まなくてもいいんだ』と思われる保護者もいらっしゃいます。笑顔が増えることが、本人にもご家族にも一番嬉しいことですし、私たちセラピストもそこを大切にしなければならないと、お二人の話を聞いて改めて感じました。
まさにQOL(生活の質)やウェルビーイングが高まることが、真の回復に繋がるのだと思います。ドッグセラピーを通じて、普段出会うことのない専門家同士が『これが大事だよね』と同じ話ができるのは素晴らしいことです。
私たちリハビリ現場では、患者さんの身体機能や生活動作を点数で評価し、点数が改善したことを良しとする傾向が少なからずあるかと思います。ただ、点数は上がっても患者さんは暗い表情のまま退院し、退院後に家に引きこもったりするケースも少なからずあります。精神面へのアプローチとして、ドッグセラピーの導入は非常に有効だと感じましたし、ドッグセラピーの導入の有無に限らず、私たちセラピスト自身も、患者さんの笑顔を引き出すような関わりをもっと大切にしていかないといけないなと改めて感じさせられました。
Profile
赤木 亜規子さん
グラフィックデザインの仕事をしながらドッグセラピーについて学ぶ。日本レスキュー協会の広報誌制作のボランティアをきっかけに、セラピードッグ事業スタッフとして同協会に入職。ハンドラーとしてセラピードッグと共に、小児病院や被災地、福祉施設などを訪問している。

今村 亜子さん
1988年 国立身体障害者リハビリテーション学院卒業
2006年 九州大学大学院博士課程修了(言語聴覚士、文学博士)
主に小児分野のSTとして療育や教育相談を担当
現在、NPO法人ことリ副代表
趣味は、有機野菜作りとヨーガ。植物や動物の声、自分の体の内側の声が聞けたらいいなと思って耳を澄ましています。
